【vol.29】ファン暴走で戦車、ドーベルマンに追撃

アンカラ トルコ

戦車

パニック化したスタジアム前

 トルコのサッカー頂上決戦を見に5時間も並んだ。いざ開場というその時にすぐにどん底にたたき落された。
 興奮状態のファンが一気にチケット売り場へなだれ込んだのだ。すると列は決壊し、後ろからも人が大挙押し寄せてき、パニックと化した。私も前へと駆け寄るが、大晦日の初詣のごとく人ごみに圧倒され、なかなか前に進めない。必死でチケット売り場へ近づこうとするも、混乱に乗じてチケットを買わずに入り口を突破する奴も出てきた。何でもありの無政府状態だ。怒号や悲鳴が響き渡る。
 その瞬間だ。私の前にいた群集がなぜか、海の津波のように自分の方へ走ってくる。人ごみで何も見えなかったのだが、異常な風景だった。人々は何かに恐怖し、悲鳴をあげている。とりあえず立ち尽くしていると、何かが見えてきた。

ここは学生闘争か?

 「ドーベルマンと戦車?」 自分の目を疑ったが、間違いない。何匹ものドーベルマンを引いた警官がこっちに押し寄せ、その後ろには戦車が追いかけてていた。 いざという時のために警官や軍などがガードしていたようだ。「ここは戦場かよ」と思いながらも、チケットを追い求めて混乱していた状態にさらに拍車が掛かった。この状況に信じられず立ち尽くしていたが、ふと我に返ると、生命の危機を察知し180度ターン。逃げる群衆と一緒にダッシュした。あまりの恐怖に腰から倒れる人も続出したが、人を助ける余裕もなく、ひたすら走った。まさに70年代の学生運動のように・・・。
 そしてある程度チケット売り場から離れると、嵐は過ぎ去った。ほっと安心はしたが、目的のチケットを買うことは叶わなかった。 試合開始の笛が鳴った。試合会場からは大きな歓声がむなしく自分の心に突き刺さった。「なにしに来たんだオレは、夜行のバスに乗って、何時間も並んで。結果ドーベルマンか。きっと外人でこんな目にあったのは私だけだろう」と肩を落とした。サッカー観戦は夢に終わった。楽しそうな競技場のざわめきをうらめしく思いながらもぼとぼと歩いた。ひたすらむなしいさだけが残った。
 「何のためにここまで来たの?」
 
<旅行記:1996年3月12日>◇19日目-2◇トルコ・アンカラ